ホーム>腸エキスパートにインタビュー

01
斎藤 豊 先生
(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 内視鏡センター長、内視鏡科 科長)

大腸がん患者数

大腸がんは増えているのですか?

わが国の大腸がんの患者数は、1970年代後半から増え続けていて、最新の予測では、2014年には男女合計で13万人に迫ると考えられています。がん患者全体に占める割合も高く、地域がん登録全国推計によるがん罹患データによると、2011年には男性では胃がん、前立腺がん、肺がんに次いで第4位、女性では乳がんに次いで第2位になっています。

大腸がんと遺伝は関係ありますか?

すべての大腸がんが遺伝と関係するわけではありませんが、直系の親族に患者がいる場合に罹る危険度が高まるという特徴があります。また、遺伝子の先天性異常が関係するものとして、他の臓器のがんを併発するなどの特徴をもつ遺伝性非ポリポーシス大腸がん(リンチ症候群)、大腸全体に極めて多くのポリープが生じる家族性大腸腺腫症などが知られています。

ピロリ菌がいないと大腸がんになりにくいのですか?

胃がんの原因として有名なピロリ菌は、複数の抗菌剤を服用することで除菌できます。最近、これをヒントに潰瘍性大腸炎を悪化させる腸内細菌を除き、症状を軽減させる治療法が行われるようになりました。ピロリ菌そのものは大腸がんには直接関係しませんが、潰瘍性大腸炎はがん化しやすいことからこの方法が注目されています。

胃が弱い人は大腸がんにもなりやすいのですか?

胃や腸などの消化管は、もともとストレスの影響を受けやすい臓器と言われています。胃の症状で悩んでいる方には、精神的要因が引き金となることが少なくないと思われ、がんの発生にはストレスによる免疫力の低下が関与するという指摘もあります。明確なエビデンスはありませんが、まったく関係しないとはいえないかもしれません。

大腸がんの増加には欧米型の食生活が影響している?

日本人に大腸がんが増えている原因の一つに、たんぱく質や脂質を摂ることが多くなった食生活の変化が指摘されています。かつて米国の日系移民には日本人に比べて大腸がんの人が多いとされていましたが、最近ではその差はなくなりつつあります。大腸がんの発症には、食事のあり方が関係すると考えられます。

赤身のお肉を好んで食べる人は大腸がんになりやすいのですか?

最近、世界保健機関(WHO)の外部組織の国際がん研究機関(IARC)より発表もあったように、牛、豚、羊などの赤身をたくさん食べる人ほど大腸がんになりやすいことがわかっていて、海外では注意が促されています。また、ベーコン、ハム、ソーセージなどの加工肉も発症に関係する可能性が高いとされています。日本人がこれらを食べる量は欧米人に比べて少ないとはいえ、摂りすぎには注意したいものです。

お酒を飲む人は大腸がんになるリスクが高いのですか?

これまでの研究から、飲酒は大腸がんの明らかな危険因子とされています。国内での調査では、一日当たりの飲酒量が多い人ほど、お酒をまったく飲まない人に比べて大腸がんの発症リスクが高まることがわかりました。男女ともに、一日のアルコール摂取量が15g増えるごとにその危険度は10%増すと考えられています。

お酒を飲まなければ大腸がんになるリスクは低いのですか?

確かに、アルコールは大腸がんになる危険を高めますが、大腸がんのリスクはそれだけではありません。また、お酒の種類別にみてそれぞれ、ビール大瓶1本、日本酒1合、焼酎120ml、ワイン200ml、ウイスキー60ml以内の飲酒量であれば、危険度は目に見えて高まらないこともわかっています。

たばこや塩分は大腸がんの発生に影響するのですか?

日本人を対象とした研究では、たばこを吸う人や吸っていたことのある人は、そうでない人と比べて大腸がんになりやすいとされています。また、塩魚や魚卵の摂りすぎがリスクを上げるとする報告もあります。喫煙や塩分の摂りすぎは、他のがんや心臓病などにつながりやすくなりますから、いずれにせよ注意したいものです。

ヨーグルトは大腸がん予防に効果があるのですか?

大腸がんの予防を食事面からみると、にんにく、牛乳、カルシウムが確実な効果を持つと指摘されています。乳製品であるヨーグルトはカルシウムが豊富で、腸内細菌のうちの悪玉菌の増殖を抑える、がん細胞を攻撃するNK細胞を活性化するなどの働きが報告されていますから、食生活に採り入れてよい食品と思われます。

大腸がんの予防に効果的な食生活はあるのですか?

先にあげた食品のほかに、葉酸、ビタミンD、野菜、果物、魚などに大腸がんの予防効果がある可能性が指摘されています。ただ、何をどれだけ食べればよいということではなく、肉食に偏ってしまう、逆に十分な栄養が摂れていないなどの不都合が起こらないように、バランスの良い食事を心がけることが大切です。

大腸を元気にするサプリメントはあるのですか?

最近、腸内細菌の多様性に注目した腸内菌叢の話題が注目され、菌のバランスを直接整えるプロバイオティクス、その働きを助けるプレバイオティクスなどがサプリメントとして多く市販されています。効果の優劣は一概に言えませんが、サプルメントに頼るより、むしろ毎日のバランス良い食生活の中で必要な栄養素を摂取するよう心がけることが大切です。

サプルメントは必要以上に摂りすぎないことと、身体に不調が現われた場合には中止することが大切です。

おならや便の回数や臭いで、病気がわかることはあるのですか?

おならでは、腐敗臭が強い場合には肉を摂りすぎているなど食事内容が関係していることがありますので生活を見直してみてください。排便では、下痢が続く、便が出にくく細い、頻繁に便意がある、出血するなどふだんとは違う状態が続くようならば大腸の病気が疑われます。早めの受診をお奨めします。

大腸がんと運動や睡眠、ストレスとの関係はあるのですか?

海外の研究からは、身体を動かす習慣は大腸がんのリスクを確実に下げることが明らかにされています。国内での研究をまとめた結果からもこれは裏付けられており、運動は大腸がん予防のための最善の方法といえます。適度な運動はより良い睡眠やストレスの解消にもつながりますから、ぜひ実行しましょう。

下痢や便秘になりやすい人は大腸がんになりやすいのですか?

下痢や便秘が大腸がんに直接つながるとはいえません。ただ、大腸がんによってこうした症状がみられることはあります。気を付けたいのは、大腸がんは初期の場合には自覚症状が現われにくいという点です。個々の症状を気にするのではなく、定期的な検査を続けることこそが大切といえます。

大腸がんにならないために年齢や性別で気をつけなければならないことはあるのですか?

大腸がん患者は50歳ころから増加がみられ、年齢が進むにしたがってその数は増えていきます。男女比では男性の方が多いのですが、女性の場合はここ数年、がん死亡数の第1位を大腸がんが占めています。これは早期発見の遅れを示していると考えられ、中年以降の女性には積極的に検診を受けていただきたいものです。

若くして大腸がんになる人はいる?

大腸がんは高齢者に多くみられますが、若くして発症する人がまったくいないわけではありません。なかでも、先に触れた家族性大腸腺腫症では10~20歳代に、リンチ症候群も比較的早期に発がんします。遺伝的要因が疑われる方には、検査やその後の対応について専門家によるカウンセリングが奨められます。

痩せていたり太っていると大腸がんのリスクは高くなりますか?

国内で40~59歳の男性約5万人を長期に追跡調査した結果、肥満度が高い人たちほど大腸がんのリスクは高まることがわかっています。この点からも運動や規則正しい食生活の大切さが理解できます。ただ、日本人の場合、非常に痩せた人は将来、がん全般に罹りやすいことも知られています。太りすぎも痩せすぎも、どちらも注意すべきでしょう。

大腸がんが見つかるのはどういうときが多いのでしょうか?

初期の大腸がんには症状がほとんどありませんが、やがて血便、下痢と便秘の反復、便が細くなる、残便感、腹痛のほか、貧血や体重減少などもみられ始めます。この段階で見つかる例が少なくないのですが、すでに進行してしまっている場合もあります。できるだけ早く見つけることが最大のポイントです。そのためには40歳以上になったら大腸がん検診で便潜血検査を毎年受けること、便潜血陽性に1回でもなった場合は精密検査の大腸内視鏡検査を受けることが重要です。

検診で大腸がんはみつかるのでしょうか? 

現在、自覚症状がない人を対象に、便の中に血液が混じっていないかを調べる便潜血検査が検診法(対策型検診;区や市の検診)として普及しています。腸内に何らかの病変が存在すると出血する場合があることから、それを確認するために行う検査です。血液反応があれば精密検査(大腸内視鏡検査)へと進み、原因病変ががんであれば早期発見につながります。またさらに早期に発見するためには人間ドック(任意型検診;自費負担)などで大腸内視鏡検査を一度は受けることをおすすめします。

大腸の早期がんと進行がんはどう違うのでしょうか?

大腸がんの多くは、まず粘膜に生じ粘膜下層へ、さらにその先の筋層へと深まっていきます。がんが粘膜あるいは粘膜下層にとどまっている場合を早期がん、その先の筋組織にまで達した場合を進行がんと呼んでいます。大腸がんは他のがんと比べて治りやすいのが特徴で、進行がんであっても転移がない状態で発見し、適切に治療すれば根治が望めます。


■ 先生のプロフィール

斎藤 豊 先生
国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 内視鏡センター長、内視鏡科 科長

■ 学歴

昭和60年3月:私立開成高等学校卒業
昭和60年4月:群馬大学医学部入学
平成4年3月:群馬大学医学部卒業
平成4年4月:群馬大学内科学系(臨床検査医学)大学院入学
平成8年3月:群馬大学内科学系(臨床検査医学)大学院修了

■ 職歴

平成8年6月〜平成11年5月:国立がんセンター中央病院内視鏡部レジデント
平成11年6月〜平成13年5月:国立がんセンター中央病院内視鏡部チ−フレジデント
平成13年6月〜平成15年3月:三井記念病院消化器内科医員/医長
平成15年4月〜現在:群馬大学医学部臨床検査医学講座非常勤講師
平成15年10月:国立がんセンター中央病院内視鏡部医員
平成19年4月:国立がんセンター中央病院内視鏡部医長
平成20年9月~現在:東京医大消化器内科 兼任准教授
平成22年6月:独)国立がん研究センター中央病院 消化管内科副科長
平成24年7月:独)国立がん研究センター中央病院 内視鏡センター長・内視鏡科 科長
平成27年4月:国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 内視鏡センター長・内視鏡科 科長

■ 専門分野

消化器内視鏡診断・治療。特に大腸早期がんの拡大診断・ESD治療

■ 表彰など

2009年:内視鏡医学研究振興財団 研究助成B 食道早期癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の標準化の為のCO2送気の導入
2010年:Visiting professor of Mayo Clinic, Rochester, Minnesota, Mayo Clinic, Jacksonville, Florida.
2011年:欧州消化器病学会週間(UEGW)Best Poster Award受賞
2013年:Basil Hirschowitz Master Endoscopist Award for advancing the art and science of endoscopy throughout the world. University of Alabama at Birmingham
2015年〜:International Editorial Board of Gastrointestinal Endoscopy
2015年6月3日〜:FASGE(Fellow of the American Society for Gastrointestinal Endoscopy)